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北海道| 利尻島 (1992.9) | 就職してからは初めての“島旅”。前夜泊まった稚内から午前中のフェリーで鴛泊港に着き、グリーンヒルＹＨで自転車を借りて反時計回りに島を一周する。距離は50キロ強、外周道路といっても東側の利尻富士町内では100メートル近いアップダウンがあって、かなりきつい。その日は平日だったため、島内にある６カ所すべての郵便局を回ってスタンプを押した（いわゆる旅行貯金）。このうち最も小規模な郵便局だった鰊泊郵便局は平成９年３月に廃止されてしまい、そのスタンプはいまや貴重品である。 | |
| 深名線 (1995.7) | 輸送密度（利用客数）の基準でいけば、国鉄時代に当然に廃止になっていたはずの深名線は、「沿線道路が未整備」との理由でＪＲ転換後もしぶとく生き延びていた。それが平成７年、ついに廃止になるということで、自分は国鉄時代(S60.8)にすでに乗車済みではあったものの、その年の７月、「ひまわりレールファンクラブ」の幹事として“深名線お別れ合宿”を企画した。当初は５人も集まれば上出来と思っていたが、フタを開けたら集まったのは９人。キタキツネが遊ぶ朱鞠内湖畔の「レークハウスしゅまりない」に泊まり、盛大にローカル線との別れを惜しんだ。 ちなみにこの合宿に参加した某氏は、前回までの訪問と合わせて深名線全駅乗降を達成している。合宿翌日の月曜日に休みをとって現地にとどまった氏は、わざわざ北母子里の駅から小生の職場へ電話をかけてきたのであった。 | 美瑛 (1999.6) | 美瑛といえば、まず思い出すのが前田真三の撮ったなだらかな丘の写真。夏は麦、とうもろこし、ジャガイモ、小豆と４種類の農作物の畑が、丘を４色に色分けする。自分が訪れたのもそんな季節で、自転車を借り、前田氏の写真館「拓真館」などを巡った。 しかし、そのとき、何よりも印象に残ったのは、鮮やかに咲くルピナスの花だった。白、黄色、ピンク、紫、細かく分ければ７、８種類はあろうかという色とりどりの花が、あちこちで咲き乱れる。ルピナスは強い植物らしく、線路端などにも少なからず咲いているが、美馬牛から拓真館へ向かう途中の丘の上に群生していたルピナスは特に美しかった。規模の上では噂に聞く十勝三股駅跡には及ばないはずだが、少なくとも、その直後に訪れた「ファーム冨田」のラベンダー畑よりは、はるかに価値のある風景だった。 |
奥尻島 (2000.9) | 奥尻島は、実は豊かな島である。水産資源が豊かなだけではない。この島は水が豊富で、あちこちに川が流れ、広い田んぼや牧場もある。沸かし湯でない、立派な温泉もある。しかし、正直言って、観光の島というには迫力不足。特別に見る価値のある景観があるとは言い難く、利尻・礼文に比べればずっと東京に近いにもかかわらず、交通は不便だ。 ちなみに奥尻には、北西部４分の１は完全な断崖になっていて、海岸部に道路がない。したがって、島を一周するには、必ず一度、中央部の山に登らなければならない。この山道はクセ者である。峠から西海岸の幌内までは「八十八曲り」とよばれる日光いろは坂も顔負けの九十九折りで、舗装はされているもののその長さとカーブのきつさは相当なもの。一方、峠から北部の野名前への道は、斜度もカーブも緩やかではあるが、半分以上がいまだ砂利道。ママチャリでの山越えはムチャクチャしんどかった。皆さん、奥尻で自転車を借りるときは、マウンテンバイクをお勧めします！ |
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東北
| 八甲田山 (2001.10) | 日本全国を旅していながら、それまで本格的に“紅葉”を見る旅をしたことは一度もなかった。このときは別目的のついでに青森を訪れ、さらなるついでで八甲田山に登ったのだが、その紅葉は実に素晴らしかった。ロープウェイで山頂公園に登り、毛無岱を経て城ヶ倉温泉へ下るルート。単に山全体が赤や黄色というのではない。中腹の山肌に生える種々の木々が赤、橙、黄、黄緑、薄緑、濃緑とそれぞれ異なる色の葉をつけ、一面がまさに自然の錦繍になっているのである。これほど美しい自然風景は、自分もなかなか記憶にない。街歩き用のウォーキングシューズにトレパンという軽装には自分でもやや気が引けたが、行っただけの価値はあった。（※冬の八甲田山は「SKI guide」のページ「番外編」参照。） | 十二湖 (2001.6) | 十二湖は火山の爆発で川が堰き止められてできた湖沼群で、雰囲気はちょうど福島の五色沼全体を小ぶりにしたような感じ。その名も「青池」という、森の中に神秘的なコバルトブルーの水を湛えた池もある。しかし、いかんせん交通が不便。世界遺産で一躍有名になった白神山地の入口でありながら、五能線の列車は観光専用列車「リゾートしらかみ」を含めて１日６本だし、車で行くにも遠い。訪れたのは土曜日だったにもかかわらず、遊歩道に人影は少なく、観光地らしからぬ静けさが漂っていた。 | 岩手開発鉄道 (1991.11) | 岩手県大船渡市の盛から岩手石橋までを結ぶ岩手開発鉄道。いまは貨物専用だが、1992年３月まで旅客営業をしており、その廃止を前に駆け込みで乗りに行った。小さなレールバスで乗客はすべて鉄道ファン、半分日が暮れてからの乗車だったこともあり、景色などはほとんど記憶に残っていない。ただ、この鉄道への乗車で特筆しておくべきは、当時仙台に住んでいた高校時代の友人に、これだけのために車を飛ばさせてしまったこと。私のワガママにつきあってくれた、決して鉄道ファンではない彼には、非常に感謝している。 | 三森峠 (1997.2) | それは、両親と猪苗代へ車でスキーに行った帰りだった。当日泊まることにしていたのは、岩瀬村内にあるゴルフクラブのホテル。スキー場からホテルまで、普通なら高速道路を使う。しかし、その日は雪で風もあったため、磐越道は通行止め。当然、併走する国道49号は大渋滞。そこで、猪苗代湖沿いに南下し、郡山市街を通らず、岩瀬村へ直行するルートをとることにした。 ところが、湖岸の道路は猛吹雪。三浦綾子の『続・氷点』のシーンのような、まさに“白い闇”の中を走っている状態。ライトをつけても、前がほとんど見えない。それでも何とか南岸の郡山市湖南町までたどりつき、左折して山に入る。ここで、事件は起きた。弱まる気配を見せない吹雪の中、三森峠へさしかかる頃、後続車を追い抜かせるために左へハンドルを切ったところ、前輪が側溝にはまってしまったのだ。街灯もない、真っ暗な山の中。車を押したり、側溝の雪を固めてスロープをつくったりしてみたが、タイヤはむなしく空回りするばかり。ＪＡＦを呼ぶにも手段がない。為す術がないまま、時は流れていく……。 結果的には、15分もしないうち、通りがかりの親切なトラックが停まってくれ、チェーンで引き上げてくれた。それにしても、怖かった。死ぬとは思わなかったけれど、福島で何かの映画のような体験をするとは思わなかった。 |
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関東甲信越
| 尾瀬 (1999.9) | 尾瀬は、1985年に長蔵小屋をモデルにしたテレビドラマ「尾瀬−山小屋三代の記」（原作は後藤允著・岩波新書）を見て以来、いつか行きたいと思っていた。しかし、一人で行く場所ではなく、徒歩以外では行き得ないためパートナーもなかなか見つからない。そんな中、たまたま両親とともに行く機会を得て、２泊３日で訪れた。 マイカーを戸倉に置き、初日は鳩待峠から尾瀬ヶ原を横切って元湯山荘泊、２日目は三条の滝を往復した後に尾瀬沼へ上って長蔵小屋泊、そして３日目は三平峠を越えて大清水へ下るという行程。距離は３日間合計でも50キロに満たず、かなり余裕を持って歩けた。夏の花には遅く、紅葉にはまだ早いという半端な時期で、人が少なかった分、尾瀬の自然は満喫できた。 学術的な細かい話は別にして、尾瀬には、決して自動車道路は作ってほしくない。いま現在でも名前だけは全国区の尾瀬は、車が入るようになれば、ひたすら荒れるだけだろう。それに、自然保護という意味でなく、観光客自身のためにも、自らの足でしかたどり着けないような観光地があってよい。観光地という観光地すべてに乗り物で行けるようになってしまったら、スポーツ選手以外の人間は、歩くということをまったく忘れてしまうだろう。 | |
| 東あずま (2001.2) | 曳舟と亀戸を結ぶ東武亀戸線に「東あずま」という駅がある。この駅は、昔から気になる存在だった。「あずま」はなぜ平仮名で、漢字で書いたらどういう字になるのか？ 地図を見ても所在地の地名は「墨田区立花」で、アズマの文字はない。しかし、とりあえずもアズマなる地名が存在して、駅はその東方に位置するのだろう……ここで、私は勝手な想像をした。「アズマ」は実は「東」で、漢字で「東東」と書くとわけがわからなくなるから平仮名にしたのではないか？ そうに違いない！−−長いこと、そう信じていた。 ところが、上野歩の『朝陽のようにそっと』という本を読んだのがきっかけで、真相が判明した。アズマは「吾嬬」。墨田区北東部一帯の旧町名で、行政上の地名としては消滅したが、今も学校や公園などの名前に名残を留めている。知ったら早速行ってみたくなって、土曜日の午後、東あずま駅から京成の八広駅まで歩いてみた。高い建物はほとんどなく、町工場やいわゆる昔ながらの“商店”が立ち並ぶ典型的な下町風景。ラーメン屋に入って食事をしたが、そこでは店員と客、そして客同士が顔見知りで、世間話に花を咲かせている。東京の下町を歩くのが初めてだったわけではないが、本にも描かれた人情味あふれる情景が、確かにそこに残っていた。 | |
| 芦花公園 (2001.2) | 世田谷文学館で開かれていた「沢木耕太郎の旅展」を観るついでに、芦花公園を訪れた。それまで単なる駅名という認識しかなかった“芦花公園”、「そんなことも知らなかったのか」と言われそうだが、実は明治の文豪・徳富蘆花の旧宅を整備した由緒ある実在の公園だった。正式には「蘆花恒春園」といい、蘆花記念館とともに東京都が管理していて、入場無料。さして広いわけでなく、特に珍しいものがあるわけでもないが、喧噪の環八通りに面する場所にありながら、独歩のいう武蔵野の雑木林の面影を残す、静かなところである。 ちなみに、芦花公園へは京王線の「芦花公園」駅から歩くと15分近くかかり、また都心から訪れる場合は、手前の八幡山駅で降りたほうが便利である。個人的には、なぜあの駅が「芦花公園」なのか、イマイチ解せないものがある。 | |
| 三宅島 (1994.4) | いまや“地震と噴火の島”として有名になってしまった三宅島。三宅へは完全なるオフシーズンの４月に行き、自転車で島を一周した。おもしろいことに、この島を自転車で回る場合は「左回り」という決まりがあり、スタートの阿古から坪田、神着、伊豆、伊ヶ谷と各集落を進む。珍鳥として知られるアカコッコは、ここではまったく普通の鳥で、何度も見ることができた。また、浅沼稲次郎日本社会党元委員長が島きっての偉人のようで、神着の高台に大きな銅像が立っていた。 全島避難命令が出て、たいへんなことになってしまった三宅島。とりあえずも島を知っているだけに、今回の災害は他人事とは思えない。一日も早い噴火の沈静化と島の復興を祈りたい。 | 別所温泉 (1988.10ほか) | 私の旅の主義は“いろいろな場所へ行くこと”。そのため、同じ場所を二度以上訪れることは少ない。 その中にあって、信州・上田の別所温泉は、1988年に初めて訪れて以来、ほぼ定期的に訪れている“お気に入り”の場所。埼玉から比較的近く、居心地のよいユースホステル（上田まほろばＹＨ）があり、いわゆる“温泉場”としての風情が残っているのがいい。夏の夜にタオルを持って、ホタルを見ながら外湯へ行き、湯上がりに地ビール「よなよなエール」を飲むのが、いいんですなあ……。 |
志賀高原 (1979.8/1990.12ほか) | 志賀高原はこれまで夏に２回、冬に４回訪れている。夏の志賀高原を歩くのも楽しいが、志賀といえば、やはりスキーだ。 ほかのスキー場が悪いとか嫌いだとかいうのではないけれど、実際、志賀高原は国内では最大のスキーリゾートだし、ダイナミックに滑れる。２泊３泊で行っても飽きることがない。自分もまだすべてのエリアを滑ってはいないので、来年以降も機会を見つけて行きたいと思っている。 ちなみに1990年の暮れ、この時は横手山頂ヒュッテに泊まったのだが、夜行列車で長野へ行き、バスとリフトを乗り継いで朝の横手山に登った際、「摂氏マイナス15度」という寒さを体験している。一瞬のことではなく、リフトが動き出すのを待って、かつ乗車している間、のべ１時間以上はその寒さの中にいたから、まさに体じゅうが凍えた。ヒュッテについたとき、何よりもまずストーブに歩み寄って手をかざしたのを覚えている。これが、今までのところ、海外も含め、自分が体験した“最低気温”である。 |
鵜川 (1983.4) | 自分の祖父母の生まれ育った村・鵜川。ペンネームの由来でもある山村（行政上は柏崎市の一部）に、中学３年に上がる春休みに訪れた。一人で東京の親戚のところへ遊びに行った帰り、わざと新潟を回る経路にして立ち寄った。柏崎駅から越後交通のバスで約45分。ズバリ「鵜川」という終点のバス停は、まだ一面雪に覆われた、田んぼの中の何もないところだった。誰かを訪ねたわけではなく、することもないので、西側にそびえる米山の写真だけ撮って、いま乗ってきたバスに再び乗り込む。往路の客が自分一人だったわけではなかったが、運転手は見慣れぬ少年をしっかり覚えていて、顔を見るなり「お前、こんなところへ何しに来た？」。理由を話すと、「よく来たなあ」と、あれやこれや、地元のことを実にいろいろ話してくれた。中身はもうほとんど忘れてしまったが、鵜川から柏崎駅まで、ほかの客のことなどまったく構いもせず、ずっと二人でしゃべり続けていたのを覚えている。 「柏崎ならともかく、鵜川まで、よう行ったなあ」後にこの写真を祖母に見せたとき、祖母は写真そのものよりも、中学生の私が鵜川へ行ったという事実に感心して目を細めた。その祖母も、いまはもう亡い。 ※その後、2009年の当地訪問については、2009年８月のコラム参照。 |
| 母島 (2024.2) | 会社を辞めなければ行けないと思っていた小笠原を、実際に辞めてから訪れ、母島まで足を伸ばした。東京からは父島ですら船で24時間と十分遠いが、母島はそこからさらに別の船で２時間、しかも高波で船が出ない日も少なからずある。その日は、船便が出るには出るも、現地滞在１時間ですぐ引き返す臨時ダイヤ。それでも行くかどうか迷ったが、ともかく行くことにした。しかし、結果としては十分に目的を達した。時間距離では「東京から世界で最も遠い島」とも言われる島に足跡を残したのみならず、特別天然記念物のハハジマメグロを見ることができ、往復の道中ではクジラの姿も見ることができたのである。 |
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東海・北陸
| 須賀利 (1989.3) | “須賀利”と聞いて、それがどこにあるどんな場所かを知っている人は、まずいるまい。自分がこれまで訪れた場所の中でも、“他人が行っていない”という意味では筆頭格と言ってよいところだ。 紀伊半島の東岸、行政的には尾鷲市の一部（飛び地）になっている小さな漁村。地続きではあるが道路は非常に遠回りのため、尾鷲港からの巡航船を利用する。どうしてこんなところへ行ったかというと、ちょうどそのときＮＨＫで放送されていた尾鷲を舞台にしたテレビドラマ「黒潮に乾杯！」にここが登場し、たまたま同じ時期に大学の鉄研の合宿が那智勝浦で行なわれたため、ついでに寄ってみたくなったのだ。 船は約50人乗りの旅客専用船で、いわゆる巡航船としてはごく標準的なもの。尾鷲と須賀利とを20分で結び、１日７往復（当時）する。ドラマの細かいストーリーはもう覚えていないが、準主役の宮崎美子が最後に船長として巡航船を運転することになっている。地元のおばさんの話では、ロケでは宮崎が巡航船の実物の舵を握ったそうだ。須賀利の村では、釣り客でもない珍客の私はずいぶん珍しがられた。「テレビを見て来た」というと納得はしてもらえたが、東京から来た人間は初めてということだった。 ちなみに、このとき何より驚いたのは、船長が航行中に客室を回って改札業務をしていたこと。尾鷲湾にいきなり潜水艦が現れたり鯨が飛び出したりすることはないのだろうけれど、有料で旅客を運送する交通機関の“手離し運転”を見たのはあとにも先にもこの時だけで、ある意味で最高にスリリングな船旅であった。 ※この巡航船は、その後廃止され、現在は尾鷲市中心部から須賀利へはバスでのアクセスになっている。 | |
| 大垣 (1992.10) | 東海道線の夜行列車の始発・終着駅であり、昼間の東海道在来線を行く旅でも必ず乗り換えとなるのが大垣駅。大垣駅で下車した回数を数えたことはないが、10回や20回でないことは確かだ。 その大垣駅で、1992年10月18日、私は国内全鉄道完乗記録を達成した。就職２年目の同年、全線完乗にリーチがかかり、どこをラストにしようか考えたところ、思い浮かんだのが大垣。近鉄養老線が未乗車になっていたため、松尾芭蕉にあやかり、「おくのほそ道」と同じ大垣を“結びの地”にすることにしたのだ。その年はたまたま芭蕉が「蛤のふたみに別れゆく秋ぞ」の句を詠んだのと同じ10月18日が日曜日だったこともあり、記録達成日もそれに合わせることにした。 当日、桑名から乗った電車が大垣駅に到着したところで、記録達成。もちろん「やった」という気持ちはあったし、感慨もあったが、何より嬉しかったのは、早大鉄研の先輩・後輩を中心にした７人もの人たちが私を祝いに駆けつけてくれたことだ。７人のうち４人はわざわざ東京からこのためだけに来てくれた人で、地元岐阜在住の先輩は、一升瓶の祝い酒をプレゼントしてくれた。 鉄道趣味は、孤独な趣味といわれる。基本的には、そうだと思う。しかし、人に祝福してもらうのは嬉しいものである。鉄道趣味をやっていて、このときほど嬉しく思い、仲間に感謝したことはない。 | |
| 黒部上部軌道 (1996.9) | 黒部峡谷の宇奈月温泉から欅平まで、観光客向けの“トロッコ列車”が走っているのは有名である。しかし、この鉄道は元は黒部川のダム建設のために敷かれたもので、欅平はほんとうの終点ではない。線路はそこから先、「黒部川第四発電所前」まで通じており、現在も関西電力の職員や資材を載せた専用列車が運行されている。この専用鉄道、通称「黒部上部軌道」に、「ひまわりレールファンクラブ」の行事として、特別に乗る機会を得た。 欅平駅で下車した我々は、貨車が丸ごと積み込めるエレベーターに乗って「竪坑上部」駅へ上がる。ここが上部軌道の始発駅だ。列車は小さなディーゼル機関車に名実ともにマッチ箱のような車両が４両。これに分乗し、ソロソロとトンネルの中を走る。壁はすべて素掘り（＝コンクリートで固めていない）で、断面積も列車の通れるギリギリしかない。しばらく進と、“高熱隧道”にさしかかる。吉村昭の同名小説でも知られるこの区間は、いわば温泉源の岩盤のまん中を貫いている形で、硫黄分を含む水蒸気がトンネル内を漂う。車両の窓には手動のワイパーがついているが、掻いても掻いても、すぐに水滴で曇ってしまう。窓にワイパーがついている客車は、全国でもおそらくここだけだろう。 列車は終点に着く直前、唯一空が見える場所である仙人谷鉄橋を渡り、再びトンネルに入って発電所に到着。ここからは全線地下のインクライン（ケーブルカー）に20分ほど乗車し、その先は専用トンネルを走るマイクロバスに乗り、立山黒部アルペンルート途上の黒部ダムへ出る。雄大なアルプスの景色が見えるわけではなく、見学させてもらえる発電所も、正直言って特別に驚くようなものではない。しかし、普通では行けない場所に行けたということで、非常に意義ある旅であった。 |
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近畿
| 能勢妙見山 (1985.2ほか) | 大阪府の最北部にある能勢妙見山へは、これまで８回行っている。うち１回は、全鉄道完乗記録を作るべく能勢電鉄のケーブルカーに乗るのが目的(その後2023年12月に廃止)だったので、行ったのは当然昼間。しかし、あとの７回のうち５回は真夜中に、しかも真冬に麓から歩いて登っている。 その理由は、母校茨木高校の伝統行事「妙見夜行登山」に参加しての“訪問”だったから。この行事は元は軍事教練として実施されていたもので、戦後も２年生有志（といっても例年ほぼ半数以上が参加する）による生徒会主催の行事として今日まで続いている。私は、ゆえあって現役３年間で３回ともこの行事に参加し、しかも1996年と2016年にそれぞれ開校100周年、120周年の記念行事の一環としてＯＢ会主催で実施された夜行登山にも参加したため、このような“珍記録”となった。 ちなみに、教職員を除けば、「妙見夜行登山」に５回も参加した人物は、３万人以上いる高校卒業生のうち、私１人しかいないようである。 | |
| 別府鉄道 (1983.12) | 自分がこれまでに乗った鉄道の中で、すでに廃止されてしまっている路線（区間）は、30以上にのぼる。その中で一番最初に廃止され、思い出にも残っているのが兵庫県加古川市を走っていた別府（べふ）鉄道だ。 もともと地元の肥料会社の貨物線として開業し、路線は工場のある別府港駅から国鉄高砂線（現在廃止）の野口駅までを結ぶ野口線と、山陽本線の土山駅までを結ぶ土山線の２つがあった。このうち野口線は晩年は旅客専用になっていてディーゼルカーが走っていたが、土山線のほうは最後まで貨物と併結の客車列車で、その客車は長さが10メートルにも満たない、ほとんどオモチャのような代物だった。私は廃止を１か月後（1984.1.31限りで廃止）に控えたクリスマスの日に現地へ行き、野口線に片道１回、土山線は１往復半、回数にして３回乗った。景色は普通の住宅地と田園の風景で特に見るべきものもなかったが、遊園地から脱走でもしてきたかのような大正生まれの小さな客車が、とりあえずもマジの交通機関として稼働していたということは、それだけで驚くべき事実。自分としては、この土山線の客車に乗れたことは、ＳＬなんぞに乗るよりはるかに貴重な体験だった。 ちなみにこの客車は、元々は神中鉄道（相模鉄道の前身）の車両だったということで、現在は相鉄かしわ台車庫の一角に保存されている。2019年12月、敷地外から覗く形ではあったがこの車両に再会する機会があった。自分が実際に利用した車両が記念の展示物になっているというのは、何とも不思議な感覚であった。 | |
| 柴山 (1981.8) | 海なし県で育ったせいか、私は海水浴にあまり縁がない。決してカナヅチではなく、大学の体育の単位を水泳で取ったくらいなのだが、海で泳いだ回数はいまだ両手で数えられる。（2024年現在） その中で思い出に残るのが柴山だ。兵庫県の山陰海岸、いまは香美町の一集落に過ぎないが、かつては北前船の寄港地として栄えた天然の良港である。その年はちょうど埼玉から大阪へ引っ越した年で、家族旅行でここを訪れた。初めて見る日本海。すでに８月も末で海水浴のシーズンは完全に終わっていたが、柴山は湾の奥にあるため、高波の心配はまったくない。泊まった民宿は、道路を挟んで目の前が浜。そこでの水遊び・砂遊びもさることながら、夜になると沖に見えるイカ釣り船の灯と、その船がとってきたイカの味が印象深い。山陰本線も当時はまだ旧型客車全盛で、内部が木造で手動ドアの列車がごく当たり前に走っていた。トンボやセミやクワガタ、昆虫もたくさん飛んでいた。 メジャーな観光地とはとうてい言えず、親類がいるわけでもない。そんなイナカの港町を、父がなぜ大阪へ移って初めての家族旅行先として選んだのかはわからない。しかし、親戚がすべて東京に住んでいて、帰るべき“田舎”のなかった中学１年生の自分にとっては、楽しい旅だった。 |
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中四国
| 魚島 (1999.5) | 1999年のゴールデンウィーク、「瀬戸内しまなみ海道」の開通に合わせて瀬戸田（生口島）へ行った。しかし、“目玉”というべき橋は、このとき開通した生口島−大三島間の多々羅大橋を片道バス、片道徒歩で１往復しただけ。ほかの橋には見向きもせずに、船の旅を楽しみ、そして魚島へ足を延ばした。 因島の中心地・土生（はぶ）港から村営船で１時間。隣の高井神島とともに愛媛県越智郡魚島村(当時。現在は上島町)を形成する魚島は瀬戸内海にありながら、燧灘に浮かぶ“孤島”である。島には釣り客が来ることはあるようだが、それ以外の観光客はまず来ないらしい。なぜそう言えるかというと、島には外来客が物を買う店がない。港を囲むわずかな平地に島のほぼすべての家が集まっており、その中に商店もあるらしいのだが、構えはどこも普通の家で、ヨソ者にはどこへ入ってよいのかわからない。唯一、港の前に「魚島観光センター」なる食堂を兼ねた施設があるが、ここで売っているのはジュースと島の特産という海苔だけ。“魚島”と言いながら、サカナはどこにも売っておらず、干物を作っている家がある気配もない。ニワトリが先か卵が先かという話はあるが、土産物屋のない場所に、観光客は来ない。いわゆる“イナカ”を形容するときに「何もない」という言葉を使うが、人が住んでいながらこれほど“何もない”場所は初めての経験だった。 | 片原町 (1992.4) | 「片原町」とは高松市のほぼ中央、ＪＲ高松駅に隣接する高松琴平電鉄（琴電）の始発駅・高松築港の次の小さな駅。私はここで、非常に珍しい経験をした。 そのとき、私は全鉄道完乗への最後の追い込みとして、屋島と八栗山のケーブルカーに乗るべく四国を訪れた。屋島へ行くにはＪＲもあるが、ケーブルカーの駅には琴電屋島駅のほうがわずかに近い。それで、高松からは琴電を使うことにする。けれども、琴電自体はすでに乗車済みで、単純に高松築港駅から乗ったのではつまらないと、隣の片原町まで歩いてから乗る。市内の広いバス通りを歩き、途中で左へ折れて路地に入り、片原町駅へは無事にたどり着いた。が、そこにはまったく人気がなく、柱に一枚の貼り紙があった。「スト決行中」……。 琴電のストは、さすがに東京では話題になっていなかった。前夜泊まった岡山でも、大きなニュースにはなっていなかった。列車に乗るべく駅の改札まで来て、そこで初めてストを知るなどという経験は、そうめったにできるものではなかろう。 ちなみに、屋島と八栗のケーブルカーは、ＪＲを利用して無事に乗車できた。また、その後2024年になって、片原町駅自体もようやく利用する機会を得た。 |
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九州・沖縄
| 唐津高島 (2001.11) | 街が一年でいちばん盛り上がる「唐津くんち」の祭りの日、唐津を訪れ、勇壮な曳山の巡行を見物したあと、唐津湾に浮かぶ高島へ足を伸ばした。半島の小高い丘に立つ唐津城に登ると、真正面に見える台形の島が唐津高島。松浦川河口にある桟橋から、１日５往復の船便で10分ほどの距離である。人口約400人、ナンバープレートのない“幽霊車”が走るこの島の“売り”は「宝当神社」。集落の中央にある、社務所もない小さな神社だが、ここにお参りすると宝くじや競馬などのギャンブルに御利益があるという。ここ数年、島が本格的にこの神社を宣伝するようになり、いまは港の一角に「宝当お休み処」という売店兼休憩所もある。せっかくなので、自分も招き猫の置物を買った。果たして効果のほどは……いや、それ以前に宝くじそのものを買わなければ。(^^; | |
| 対馬 (1993.5) | 自分がこれまで訪れた島の中で、最も印象に残っているところの一つが対馬である。対馬は島には違いないが、とにかくデカい。島を観光する事実上唯一の交通手段であるレンタカーをもってしても、一日で島を一周することは不可能だ。そして、人口密度が非常に低い。島を縦断するバスに乗るとわかるが、次の停留所まで10分近く停まらず、運賃表示器が一気に400円近く加算される区間が複数ある。人の気配のまったくない、まさに山猫の出てきそうな場所があるのだ。住民も実にのんびりしている。車で国道を走っていたら、目の前に老人が“飛び出”してきて、牛を引いて横切っていったのには驚いた。 また、この島の特徴として言えるのは、いわゆる“観光地化”されていないこと。島の経済の中心地である厳原港ですら土産物屋らしい土産物屋はほとんどなく、多島海の浅茅湾（あそうわん）を見下ろす展望所には売店すらない。少しくらい景色がよくても、本土から遠くてしかも島内の交通も不便なこの島には、観光客はほとんど来ない。“島旅”というより、素朴なニッポンを旅してみたいという人にはお勧めの場所だ。 | |
| 姫島 (1995.12) | 大分県・国東半島の沖に浮かぶ姫島。本土側の伊美港とこの島とを結ぶフェリーで、私はえらい目に遭った。 往路は「ヨイヨイ」だった。周防灘に若干霧は出ていたものの、船は定刻に伊美港を出港し、時刻表どおり25分で島に着く。ところが、島を自転車で一周し、「拍子水温泉」なる温泉に入り、昼飯に「お造り定食」なんぞを食べているうちにだんだん風が強くなってきた。早めに港へ行き、待合室で出港を待っていると、突風で入り口の扉のガラスが割れた。自分は無事島を脱出できるのか？ だが、島の人は特に慌てるでもなく、船が欠航するという話もない。二層建て200トン級の小さなフェリーは、定刻の13時、何もなかったのように姫島港を出る。しかし、その後が悪夢だった。初めのうちは船室でテレビなんぞを見ていたが、揺れがだんだん激しくなり、気分が悪くなって、風に当たるべく甲板へ出る。そこで見たものは、船の屋根をも越える波しぶき。手すりに掴まらなければ、まともに立っていることもできない。ここは本当に瀬戸内なのか？ 風を避けてか、船はまっすぐ本土には進んでおらず、蛇行を繰り返し、なかなか陸に近づかない。まるで壊れた遊園地の遊具の如きフェリーボート。台風が来たわけでもないのに、なんでこんなことになるんだ……。 結局、船は通常の倍近い45分をかけて伊美港に到着した。岸に上がったときのあの安堵感は、何ともいえないものがあった。 | |
| 波照間島 (2004.11) | 日本最南端の島・波照間。そこは、最北端の観光都市・稚内とは対照的な、静かなところだった。 石垣港から定員約50人の小さな高速艇に乗り、波の上を滑るように走って１時間。波照間島は、完全なる農業の島である。沖縄県内でも有数の質を誇るというサトウキビの農業だけで、ほとんど島の生活が成り立っている。海に囲まれていながら、漁業は「やっていないことはない」程度にしか営まれておらず、観光産業もオマケという印象。交通が不便だからといえばそれまでだが、最南端の高那岬には碑とあずまやがあるだけで、看板も売店も商業的なものは一切なく、最北端の地とはあまりに対照的だ。観光客が島内を回る事実上唯一の交通手段は自転車。ママチャリで、一面に広がるサトウキビ畑の中を走る。車はほとんど来ない。人もいない。聞こえるのは風の音だけ。ほんとうに静かな、何も考えずにのんびりするには最高の場所だった。 ちなみに、この島にも一つだけ賑やかなところがある。「民宿たましろ」の夜。全国からの旅人たちが軒先のテラスのテーブルに集まり、幻の酒といわれる島産の泡盛「泡波」を酌み交わしながら、誰もが驚く特大ボリュームの夕食をとる。部屋は正直言ってボロだけれど、波照間の旅を楽しむなら、ぜひこの「たましろ」に泊まることをお薦めする。 ※「民宿たましろ」は、オーナーが亡くなったことにより、2023年に閉館したようである。 | |
| 与那国島 (2006.6) | 1985年に納沙布岬と宗谷岬を訪れてから21年、日本の東西南北端では最後の訪問となった最西端の島・与那国。そこで知った最大の驚きは「日本最後の夕日は海に沈まない」という事実であった。 島国ニッポン、東の端に行けば太陽は当然は海から昇り、西の端に行けば海に沈むのが当然と考える。しかし、実は日本最西端の島では、太陽は異国の島影に沈む。これは世界地図を見るとよくわかる。与那国島の西方約110キロのところに台湾がある。台湾は、4,000メートル級の山を抱く、九州に匹敵する面積をもつ巨大な島。与那国から見れば立ちはだかる屏風の如きもので、その島影は、水平線にたどり着く前に太陽を飲み込んでしまうのである。実際に台湾そのものが与那国から見える日は年に数日しかないそうで、自分も見ることはできなかったが、日本最西端の宿「よしまる荘」に三連泊した最後の日、太陽が水平線に沈まない事実だけは確認できた。 テレビドラマ「Dr.コトー診療所」のロケ地として俄に注目を浴びている与那国島。同じ八重山の離島でも、波照間に比べるとかなり俗化している感はあるが、“さいはて”が実感できる意味で一度行く価値はある。ただ、足の保証がない点は要注意。与那国へは石垣から週10便、那覇から週３便の航空便があるが、欠航するケースが少なくなく、自分も１日足止めを食らった。長く国内外を旅している自分だが、実際に乗る予定の飛行機が欠航になったのは、何を隠そう、これが初めてのことであった。 |
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